6,わたなべ なおきさん(後編)カウンセラーインタビュー
心理カウンセラーインタビュー
■6人目の心理カウンセラー
【わたなべ なおき】さん後編になります。
インタビュー前編では、ご自身がカウンセリングを受けた時の衝撃的な体験や、カウンセラーとしてカウンセリングがどのようなものなのか?などを聴かせて頂きました。
こここら個人の悩みに留まらず、社会的な課題までを見渡した、広く奥深いお話に展開されていきます。
※わたなべ なおきさん(以降:ナベ)
※インタビュア窓の内側(以降:窓)
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■自分の世界を広げる
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窓:1年間休職していた仕事がゲームプランナーっていうところから、カウンセラーになって…。
全然違うお仕事ですよね?
ナベ:もともと私自身が、ゲームを通して自分の世界がどんどん広がっていった感覚があって。
その会社の面接で話した時に、
「自分は、御社に入ることによって、ユーザーさんが世界を広げるきっかけを作っていきたいんです。だから御社に入って歴史ゲームとかを作っていきたい… 」
みたいな話をしたわけですよ。
それは私の中では変わってないと思っていて。
結局、カウンセリング っていうのは、その方のいろいろお話を聞いたりとか、カウンセリングをやっていくことによって、その方自身が
「あ、こういう世界 もあるんだ。」
だったりとか、
「あ、自分ってこういう人なんだ。だったらもっとこう生きていいじゃん!」
だったりとか。
その人自身の世界を広げる、きっかけを作ってるって思っていて。
私の中で、社会的な問題というか課題っていうところとして捉えてるのが、いくつかあって。その1つが【手段の目的化】っていうところがあって。
仕事やってること自体は、正直、手段でしかないのに、そこにすごく焦点を当てて、それをうまくどうにかしなきゃいけないって思うよりも…。
それこそ、私の中では仕事にやりがいなくたっていいと思ってるんですよ。
やりがいがなきゃいけないっていう形で(自分の中で)決められてる時点でアウトだと思って…【思考の停止】なので。それこそ、よく言うんですけど…「釣りバカ日誌」ご存知ですか?
窓:知ってますけど、見たことないです。
ナベ:仕事どうでもいい!みたいな主人公さん。
釣りが大好きなんですよ。家族とすごく幸せ、釣り仲間だったりとかもいっぱいいて。
だけど、仕事はできないって言われたりとか。仕事が結構雑だし、大してやろうと思わない、ぐらいな感じなんですよ。でも、幸せなんですよ。別にそれでいいわけですよね。
仕事っていう捉え方とかも、
「仕事で自分はこういうことやらなきゃかっこ悪い」
だったりとか。
「こういう風な仕事してる自分って惨め」
とか。そういう世間様の価値観じゃなくて。
「自分は別に、仕事は正直なんでもいいと思ってて、家族と幸せだったらそれでいいんだ〜」
「俺、仕事にやりがい求めてないし〜」
って言えれば、もう、そっちのほうがカッコいいわけですよ。
「仕事ってやりがいないと!やりたいことやってないのって、なんか嫌じゃないですか?」
っていうんじゃなくて、
「いや、 別にやりたいことやんなくたっていいじゃん。だって俺、家族いてすごい幸せだよ!」
って言ってる方が、かっこよくないですか?
窓:確かに!
ナベ:結局、これも キャリアの考え方ですと、【Will、Can、Must】って考え方があって。
・Willが「やりたい」
・Canが「できる」
・Mustが「必要とされる」
って言うと、たいがいの人はWillの「やりたい」っていうところじゃないと、仕事自体がうまくできないと思うわけですよ。
でも、やりたいことでもCanがないと、自分が苦手なことだったら、やりたくなくなってきますよね。
「やりたい!やりたい!興味あることだ!」って言ったところで、やりたいことやれてたとしたって、誰からも必要とされなかったら(Must)儲からないし、仕事続けられないじゃないですか。
だけど…Will ばっか、みんな注目しようとするわけですよ。
でも逆で。
「Can=できること」をやってみると…
多分ちっちゃい子どもの頃とかあると思うんですよ。親とかに、「これやってみな」って言われたら、結構得意になって、「意外と俺、うまくできんじゃん!」とか。
部活とかやったら結構うまくできて、すごくそれが「やりたい」に変わっていったりとか。
CanがWillに変わることだってある。
Mustで…
それこそ、なんかの代表委員だったりとか、リーダーとか任されちゃって。
「なんか嫌だな。私そういうのうまくできるわけないのに…」
と言っても、みんなからそれ求められて、やってみたら意外とうまくできたり、とか。
必要とされたりすると、なんかそれが嬉しくなって、それがいつの間にか好きになってたり…とかっていうのはありますよね。
だから、Willじゃなくて、CanとかMustから注目して、実はWillが勝手にできるということもあったりするんだけど。
Willばっか みんな注目すると、しんどいじゃないですか。
Willがスタートじゃなくたって、本当は…総合的に見たら、幸せなお仕事自体はできるのに、
「Willじゃない!」「Willがないとダメ!」
っていう考え方に縛られてしまうと、それこそ逆に、やりたいことが見えなくなる。
窓:でも確かにそうですよね。Will…ある方が珍しいじゃないですか?
ナベ:興味あることやったところで、できなかったらつまらなくなっちゃうし。必要とされなかったら、続けられないしっていう。
結局、【Will】【Can】【Must】の部分を、バランスよくやれると、長続きしやすいんですよね。
窓:その3つのどこからだって【Will】に繋がればいいんだから、どこからだっていいんじゃないか…?やってみなければわからないですよね。
ナベ:「やりたいことがない自分はみっともない」
っていう価値観が、世間で作られちゃうから。そっちをやらないといけないんだって、思考が停止されて、そっちに無理くり考えようとするから、余計に見つからないし、苦しくなる。
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■義務感による思考停止/分かりやすさの罪
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ナベ:ある種、社会課題というか、人を苦しめてる課題が3つあって。
さっきの【手段の目的化】と、【分かりやすさの罪】
最後に【義務感による思考停止】なんですよ。
義務感て「こうしなくちゃ」っていう形でやってるからこそ、それによって考えてないんですよ。
「こうしなくちゃいけない」っていう時点で、そこにもうしばられてる。
それこそ、
「親からこう言われたから、こうしなくちゃ」
とか。
有名人・著名人が youtubeとかで、
「これって、こういうもんなんですよ!」
みたいなこと言ったら、
「あっ、そうなんだ!そうしなくちゃいけないじゃん。そうしてない自分だめじゃん…」
それも義務感ですよね。
「こうしなくちゃ」
っていう形でやった時点で、自分から考えることを手放しちゃうわけですよ。
そうやって思考停止してしまうことによって、自分が見えなくなるし。目の前のことだったりとか、相手を見ることができなくなるわけですよね。
それが本当に怖いことだと思ってます。
どっちかって言うと、義務感によって考えることを思考停止してしまう状態自体が、すごく危ういなと思ってるところ、なんですよね。
今って考えさせないじゃないですか、ビジネス自体が。Google 含めて、いわゆるレコメンド社会なので。
どんどん過去の自分が選んだものだとか、そういうところから、ネットの社会っていうのは出てくるんで。新しい自分を作るのって、ネットの社会に生きてると難しいんですよ。
窓:え!?えっ??どういうことですか??
ナベ:例えば、ニュースサイトとか見ますよね?そうすると、自分の検索(した履歴)だったりとかがあるから、
「あなたはこういうのが向いてるよ!」
って形で、次からどんどん広告が出てきますよね。自分の過去、選んだものたちに相性が合う広告だったりとか。
窓:出てきます、はい。
ナベ:そうすると、過去の自分が強化されるだけで、新しい自分は作れなくなるんですよ。
窓:過去の情報ですからね、引っ張ってるの。
ナベ:youtubeとか、あぁいうのもサムネイルでいかにパッと見せて「こういうもんだ」っていうのを印象つけて、 分かりやすく使うってことが…それがある種【正義】みたいな形で、インパクトあるもの、分かりやすく表現するもの…
分かりやすくシンプル化していって、どんどん伝えていくから、【それが正しいもの】っていう形になっていく。
もっと細かい…複雑なものっていうところを、考えさせずに「これは、こういうもんだ!」っていう形でシンプルにした方が受けもいいし、注目されるし。
「いかに、人に考えさせないか?」 っていうことが 、ビジネスとして成立する世界ですよね。
窓:それがしかも、さらに過去の自分を強化している。
ナベ:考える機会をどんどん失われていくし。
だから余計に、自分が見えなくなります。
それが【分かりやすさの罪】なんですよ。
分かりやすさってというところが、人を苦しめている、と私は思ってます。
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■自分にレッテルを貼りすぎないこと
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ナベ:いわゆる発達障害とかHSPとかも、支援者側が安易にその言葉を使ってしまうと、その言葉に縛られる、強い言葉なので。
例えば、
「自分は自己肯定感足りないんだ…」
だったりとか。
「自分はHSP だから、これは仕方ないんだ…」
っていう形でレッテルを貼ると、満足度は高くなるんですよ。
「自分はこういう人間だ」ってわかるし、自分に許しができるので。
「じゃあ、またこの人に頼ったらいいんだ。私は私でいいんだ。」その 「私でいいんだ 」の「私」って本当にそれが「私」なの?っていうところが、また難しい。
もしかしたらHSPって言っても、やり方だったりとか、違う考え方があったらできる可能性もあるのに、「できない自分」という形で守っちゃうと、可能性を失う可能性もあるんですよね。
それもやっぱり、さっきの思考停止にもなってしまうので。
レッテルを貼っちゃうとすごくそこから解くのもまた、難しくなるわけですよ。
カウンセリングでも、過去にすごく焦点を当てるカウンセリングをやられる方って、昔はすごく多くて。だいたい親子関係にもってくんですけど。
それは確かに、原因としてあったりとか…事実として、もちろんあるんだけど…。
だからスッキリは、するんですよ。
「こういう原因があるから苦しかったの。そうだよね、だから仕方ないよね。このカウンセラーさん私のこと分かってくれる、すごーい!もっともっと私の原因あるよね?だからこういう風な自分で仕方ないよね。こういう自分許してくれるよね…」
っていうところで、ある種気持ちいいんですよ。
だからずっと、
「ほらまた原因…あれも直さなきゃ、これも直さなきゃ…これも、こんな原因あった…」
っていう形でどんどん…まぁ無限にあるので。
「じゃあ、これからはどう生きたいの?」
は、意外と扱ってなかったり。
それこそ今って、いわゆる短期療法と言われてるブリーフセラピーとかって考え方は、その人(クライアント)に焦点を当てるんではなくて。
その人(クライアント)は基本的に「何も問題ない」という考え方で。
そうするとこの人(クライアント)が、
「こうなりたい」
「じゃあ、こうやればいいんだ」
っていうところさえわかれば、過去への見方が変わるわけですよ。
しかも、「こうなりたい自分」に、どんどん近づいていくわけですよね。そっちのほうが早いんですよ。
だから私は、できる限り、そっちのアプローチを基本的にはとりたいと思うし。
もちろん、すぐにそっち(こうなりたい自分)は描けない人にとっては、過去はアプローチする必要あるかもしれない。そこはもちろん扱うけど。
でも、過去ばっか扱って、どんどんがんじがらめに動けなくて、「こういう自分なんだ!」っていうレッテルを自分て貼っていくことによって身動きが取れにくくなると、本当にそこから解くことが大変になってくる。
パートナー問題とかの例で言った時も、結局「旦那さんムカつく!」っていうところから入った時に、
「旦那のことムカつくのは、こういう親子関係があって今の自分になったから…」
とか、色々出てくるわけじゃないですか。
「だから仕方ないですよね、こういう関係で」
ってずーっとやってても、旦那さんとの関係が「ある種仕方ない」っていうところは分かるけど、「で、どう解決するか?」とかっていうところが、見えない。
窓:ムカつく旦那さんを強化してるだけですもんね?
ナベ:私がアプローチするのって、人にもよりますけど、
「じゃあ、どういうところがそうだったのかな? 」
とか、
「今現在、あなたのどんな考え方があるのか?」
とか…
「じゃあ、 旦那さんはどんな考え方でそうやってるのかな?」
「どんな時に… じゃあ、いい時との違いはなんだろうな?」
とか…
ていう形でどんどん考えていったり、 分析したりしていくと、
「あれ…?旦那いいやつやん!」
て見えてきたら、過去がどうであれ別に、これからいい関係さえ築いていければ、もう解決なわけじゃないですか。
窓:なんなら過去の旦那さん、いい人になってるじゃないですか(笑)
ナベ:そうなんですよ。過去、もしかしたらいろんな苦しみがあったかもしれないけど、そこを扱わなくてもいいかもしれないし…。ていうのは、あるかもね?って話ですね。
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■本音を話せる場
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窓:カウンセラーとして「これだけは伝えたい!」とか、「これだけは話しておきたい!」みたいなことってありますか?
ナベ:それで言うと、私は「心のケアをもっと身近に」みたいなキーワードでやってたりもするんですけど。
誰かと話せる場・自分のことを発する場っていうのを、もっと作ってもらえるといいのかなっていうのはありますよね。
心の問題だけの話で言うと、とにかく自分の言葉を発する機会っていうところを作ってもらえるだけでもかなり効果はあると、私は思ってます。
どちらかというと、本音を言える場がないことが問題だと思うので。
私は、最低限の傾聴のスキルだったりとか、本当に 基本的なところを学んでもらっていれば、別に友達でも誰でもいいと思ってる方なんですよね。
スキルレベルよりも、人として相手のために力になりたいっていう…そこの本当の部分(想い)さえあれば、別に誰でもいいって気持ちもあるんですよ。
じゃあ「プロのカウンセラーいらないやん」って言ったら、何が価値あるかっていうと、スピード感 だと思ってるんです。
やっぱり、多重関係の人だと、すごく親身に話を聞いても難しい部分があったり…時間がかかっちゃう。
じゃあプロのカウンセラーは、実際にやってると何ヶ月もかかるものが、数回の…それこそ1回1時間〜2時間とかで終わらせられるって言うところの価値だと思っているので。
それと、いわゆる守秘義務も守れると。そこだけで本音を話せる場を、ちゃんと作れるっていうところなんですよ。
公共でも無料で相談できる場はいくらでもあったりするんですよ。それこそ法律的なことから、キャリアの相談から…いじめ含めて人生的なとこだったりとか。
それこそ依存とかで苦しんでる…アルコールとか、ゲーム依存も含めて、そういうのも結構いろんな自助グループさんとかいっぱいあって、たいがい無料なので。
厚生労働省さんのホームページとかも、だいたい書いてあったりもするので。お金がないとそういう場がないと思ってるけど、公共事業って、いっぱいあったりする。
そういうとこで相性がすごくいい場にもなるかもしれないし…なんか一人で抱えてるぐらいだったら、そういったものも全然…まずは使ってもらう、でもいいと思ってます。
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これだけSNSが発展して、自己表現の場がたくさんあったとしても、本音を話せる場は逆に少なくなってきているようにも感じます。それだけに、
●本音を自分の言葉にして話すのこと。
●分かりやすさに惑わされ、思考停止しないこと。
●過去の自分ではなく、今の自分として、これからどう生きたいのか?
これらの、ごくあたり前のように思えることを、改めて大切にしていくことが必要なのかも知れません。
ナベさんは、カウンセリングを通してお一人お一人が、自分の中にある大切なものを取り戻す場を提供している、ということなんですね。
いかがでしたか?
ナベさんのお話が、キャリアや人生の希望になることを願っています。
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最後に、願いが3つ叶うとしたら、何を願いますか?
1,もしもボックスで、「いいね」「満足度」などを無くす。そういう分かりやすさを無くしたらどうなるのか?見てみたい。
2,ハジメテン
全てが初めてだったら、いつでも初心に戻れて初めての感動を楽しめそう!新鮮な気持ちで手段の目的化になりにくいのかな?
3,もしもボックスで、権威バイアスをなくす。
YouTubeや有名な人が言ったことに囚われず、自分で物事を考えられると、義務感を減らすことになって、素敵な世界になるんじゃないかな?
ドラえもんの道具で実験して、見てみたい世界を3つあげてくれました。
その答えもまた、世の中の在り方が変わることで、個人の悩みが減るのではないか?という、広い視点から考えられたものでした。
今回のインタビューで話してくれたことに繋がる、ナベさんらしい願いですね!
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インタビュア「窓の内側」の人、心理カウンセラー美樹teaの『お茶うけ心理学note』もあります!